さりげない風景文様にしても、人物や器物を配した文様にしても、その背後には中国、そして日本伝統の文芸テーマをなぞった意図が隠されていることが多いです。
江戸時代の武家や富裕な町人の女性たちは、自らの教養をふまえてそれらの文様を身につけました。
古くは中国の漢詩であったり、和国風が根づいてからは万葉に始まり古今、新古今の和歌に 詠われたテーマでした。
また、室町時代から能・謡曲の主題は武家女性にとって必ず学ぶべき教養であり、文様意匠にも表現されて現代にまで続いています。
文芸を基調にした文様で目立つのは『伊勢物語』、そして『源氏物語』の各帖をなぞらえたものです。
【源氏物語絵「紅葉賀」】 げんじものがたりえ「もみじのが」
源氏物語は古くから絵巻が遺され、物語の場面展開が明白なこともあって、文様化しやすかったのでしょう。
特に女性のきものには王朝文化の雅は取り入れやすく、近代でも黒留袖や振袖にも用いられます。
この写真は、源氏の父帝行幸の場の栄華です。
【源氏物語絵「明石」】 げんじものがたりえ「あかし」
父帝に守られた源氏の君の栄華は一転し、須磨に流されました。
その後、都に戻る源氏が明石の君に箏(そう)の琴を聴かせてと乞う場面です。
【源氏物語絵「花宴」】 げんじものがたりえ「はなのえん」
王朝を主題にした人物風景文でも、源氏物語にちなむものは「源氏雲」と呼ばれる雲取りの合間に物語場面が展開するとともに、しばしば「源氏香」が配されています。
源氏香は香道の組香で、五つの香のうち同じものを当てる、その覚えが五本の線のつなぎ方で 表現され、源氏物語の各帖の名が当てられています。
この写真は源氏香は「紅葉賀」に続く「花宴」を示します。
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